ついに来るべきものが来た。営業局の某部長が「ぜひドラマに出て欲しい」と言ってきたのだ。まあ僕のタレント性演技力からいえば、いつかはこんな話になるだろうとは思っていた。しかし、ここで喜んだ顔をしたのでは社長の沽券にかかわる。僕は渋面を作りながら「何で僕が出にゃいかんのかね」と言ってみた。内心では「それでは出てもらわなくても結構です」と言われるのを恐れていた。某部長は「全社員の強い希望です」と平然としていう。ちなみにこの部長は、何でも平然としていうので、僕は「鬼ヘェ」と名前をつけている。

まあ、そこまで言われたのでは出ざるをえないだろう。なんでも毎月最終土曜日の深夜、午前1時25分から30分間の「オルガタウン」という新番組で、その第1回目とか。ドラマのタイトルは「真夜中の探偵」。当然、僕は渋い刑事役で主役なんだろうな。「はぐれ刑事純情派」の藤田まことの顔を想像しつつ、つい頬っぺたが緩んできた。「鬼ヘェ」は「いやいや、大富豪の社長役で、ドラマには欠かせない役です」と、平然と言いつつも、どうも歯切れが悪い。そうか「富豪刑事」の男性版というわけか。「台本を置いていきますので、読んでおいてください」と、「鬼へぇ」はあたふたと帰っていった。

どうも様子がおかしい。僕は不安を感じながらも、期待に胸を膨らませて台本を開いた。1枚目に僕の名前はない。2枚目の僕だから2枚目かと思ったら、そこにもない。やっと7枚目に僕の役があった。なんじゃ、これは。場所はKAB社長室。「特別出演の社長と孝がもめて出て行く」とある。ここまではいい。その7行下。「社長室お茶を飲もうとして、急に苦しくなり、倒れる社長」だって。その横に「社長が心筋梗塞で急死」。げーーっ。

これでは僕の出番は2,3秒セリフもなし。演技力を発揮しようにも、単に苦しんで死ぬだけでは、どうしようもない。タレント生活の危機だ。ちょっと待った。こんなことを言っている場合ではない。「鬼ヘェ」の言った「全社員の強い希望」というのは、僕が心筋梗塞で急死することなのか。僕は烈火のごとく怒った。とお思いだろうが、僕の心は実におおらかで広い。というよりも、この手の悪戯やブラックユーモアが大好きなのだ。いつも他人に仕掛けているから、怒るわけがない。もちろんドラマ出演の決心は揺るがなかった

ところが、運がいいのか、悪いのか、撮影当日、所用で出社できなくなった。まあ、2,3日なら待ってくれるだろう。数日後、ぱったり会った「鬼ヘェ」に撮影はどうなったのか、聞いた。「鬼ヘェ」はいつものごとく平然と「いやあ、代役で済ませました」。かくして僕のドラマ初出演は幻のごとく消えてしまった。友人や親戚にドラマ出演を吹聴していた僕の面子は丸つぶれだ。こうなれば「鬼ヘェ」の夏のボーナス査定を厳しくするしかない。と思ったら、査定は終わった後だった。「鬼ヘェ」はちゃんとそこまで読んでいたのだ。さすがKABの部長さん。

みなさん、もうお分かりだろう。僕の過労死を狙うコケボウはKABでは決して特殊な人種ではない。平気で社長を心筋梗塞で殺す社員もいるのだから。

コケボウのひとこと

あははははっ(爆笑)
ドラマ出演のご予定でしたか。
残念ですわぁ。
「心筋梗塞で苦しむ社長」を是非OAで見たかったなぁ~。
でもご老体の社長が「心筋梗塞」役ってのも、あんまりシャレにならないので、
ワタシもっとスマートな役をご用意します♪
金曜日収録しますので、コンディション(外見の)を整えてお待ちください♪
しかーし、社長もかなりの「妄想族」とみた!
しかも「妄想」「暴走」する性質の悪い「妄想族」のもよう。
「妄想」が社内のトレンドとは・・・
KABもどーなんでしょ(笑)