僕は生まれて初めて化粧をした。正確にはさせられた。別に俄かに女装趣味に目覚めたわけではない。あくまでも仕事の一環からだ。そのように仕向けたのは、そう、あのコケボウである。

ある日、コケボウが「新しいCMに出てください」と言ってきた。明らかに業務命令だ。「いやあ、僕も忙しくてね」といいかけたら、「社長の仕事ってCM以外にもあるんですか」とあざ笑い地響きを立てながら去っていった。社内の力関係からいえば、僕は今回も泣き寝入りするしかなかった。

数日後、1階のメイク室に呼び出された。何でもデジタル化対応で高感度カメラを使うので、メイクアップが必要という。僕は「男が化粧なんかできるか」と断固として断った。「髪の毛一本、一本まで映るんですから、綺麗にしましょうねぇ」と猫撫ぜ声を出すコケボウ。あとでKABファン倶楽部通信の編集後記を見たら「ブツブツ言う社長を子どもをあやすように(子どもなら叱り飛ばせるけど、流石に社長を叱れないし)なだめすかしながらの撮影」と書いてあった。僕はガキなのか。

否応なく鏡の前に座らせられる。醜悪な顔が目前にあり、脂汗がにじみ出て、あわててギュッと目をつぶった。顔面にスプレーで液体を吹きかけられる。良いにおいだが、場末のスナックのトイレの香に似ている。次に顔面マッサージ。表情を柔らかくするためだそうだ。眉毛の手入れに続いて、何かの化粧品を塗りたくられる。毛髪にも櫛を入れられる。最後に口紅まで塗られた。ヌルヌルして気持ち悪い。毎日、化粧する女性も大変だなあ、としみじみ感じた。ここまでで約30分かかった。

スタジオには10人近くのスタッフが待機していた。椅子に座らせられ、ぐるっと半回転して、ニタラッと笑えと命令された。「セリフは」というと「そんなもの、あるわけないでしょう」とほざいた。おまけに「笑いに品がない」とか「歯をむき出して笑うな」とか「体が傾いている」とか、さんざん文句を付けられ、取り直しに次ぐ取り直し。そのたびにメイクさんが走ってきて、額や鼻の頭をパフパフと叩いていく。カメラマンも「右の耳の後ろの髪の毛が一本立っている」と、やたらに細かい。30分たったころ「まあ、こんなもので仕方ないでしょう」だって。

ちょっと待ってくれ。このどこがCMなのだ。「僕の出番は、あとどうなるの」と聞くと、「これでおしまい。出番は2秒ぐらいしかありませんから」。えつ、わずか2秒のために化粧して、沢山のスタッフを使い、全体で1時間もかけたのか。時間と人手の浪費ではないか。僕は怒るどころか、キツネに化かされたような気がした相手がコケボウだから、キツネではなくタヌキか。どちらでもいいけど、デジタル化というのは大変なんだなあ。僕のように下地が整っていればいいけど、目じりに皺があったり、シミ、そばかすなどがあるアナウンサーや俳優さんたちはどうするんだろう。

さて新しいKABのCMは今月20日ごろから放送されるんだって。だれがこんなCMをみるものか。僕はその時がきたら、他局にチャンネルを切り替える決心をしている。

コケボウのひとこと

たった今、ほぼ出来上がったCMを見てきました。
まだ音は付いてませんが、なかなかの出来上がり♪
「自分の顔を見ているのがイヤだ」という理由で、床屋にいかれない社長にとっては、長い時間鏡の前に座っていただくこと自体が「拷問」だったかもしれませんが、なんせ高感度カメラで撮影しているんですもの、メイクはしていただかないと「まんま」でちゃいますからそれこそ大変なことになってしまいます。
きれいにメイクを施していただいたお陰で、よかったでしょっ?
っていうか、社長はまだご覧になってないんでした。
なんと言われようといいんです。
出来上がりが全てです。きっとお気に召すと思いますので、少々お待ちを。
視聴者のみなさんも楽しみにしておいてくださいね。

さてCMの制作の現場というのは、想像をはるかに超えるたくさんのスタッフで構成されています。
たくさんのスタッフのなかでも、特にお世話になったイケメンKさんが、今回のCMを最後に現場から去られることになりました。
いつもクールな外見とは裏腹に、小道具作りから、スケジュールの調整、はたまた私のわがままの聞き役など、ホットなハートでこなしていただきました。
ケービィーが上った葉っぱ一枚落ちていないきれいな階段、崩れ落ちたダンボール。
最初からそうなっていたわけではなく、落ちた葉っぱを一枚ずつ拾い、引越しシーンにふさわしいダンボールを探して組み立て・・・今まで放送したCMの1カット1カットにいつもKさんの頑張りの跡がありました。
本当に今までお疲れ様でした。
新しい世界でも、あなたのそのキラキラした真っ直ぐなお目々で、たくさんの人を魅了することでしょう。
頑張ってね。
今までありがとう。
さっ、今度はプライベートで飲もっかね。うふっ