『FIFAワールドカップ2026 北中米大会』が、日本時間6月12日に開幕します。
96年の歴史を持つワールドカップ。この間、当時の国際情勢や紛争を背景に、対立している国同士が試合で相まみえることが何度もありました。そこで生まれたドラマは、より強く、より鮮明に人々の記憶に刻み込まれています。
今大会は、その長い歴史に一度もなかったことが起きようとしています。
開催国と出場国が、紛争当事者という初めてのケース。開催国アメリカに、敵対国であるイランがやってきます。
アメリカ側が、イラン代表団の国内滞在に難色を示したため、ワールドカップ期間中のイランの拠点は、直前でメキシコに変更されました。
アメリカへの入国ビザについては、選手全員には出されたものの、一部のコーチやトレーナー、医療スタッフや、サッカー連盟の会長など、十数人の入国が拒否されたそうです。
イラン代表 アミール・ガレノイー監督 「12時間の時差に慣れるために先週には到着したかった。人間としての敬意ある対応を期待する。我々、イラン人は慣れている。だが、残念なことだ」
イランに向けられたアメリカの警戒感。
アメリカ ルビオ国務長官(4月) 「問題なのは選手ではない。革命防衛隊と関わりのある同行者の入国は認めない可能性がある」
イランのスポーツ界と革命防衛隊は、つながりが深いといわれています。
例えば、イランサッカー連盟の会長は、革命防衛隊の情報部門を率いていたという経歴を持ち、4月にも、それが理由でカナダに入国できなかった人物です。
ただ、徴兵制のあるイランでは、兵役に就く際、本人の意志とは無関係に革命防衛隊に配属されることもあるといわれています。
■アメリカ滞在は“試合当日に限定”
イランの苦境は、ほかにもあります。
グループリーグ3戦の会場は、すべてアメリカ。 入国ビザは試合当日に限られ、毎回、メキシコから移動し、試合後にメキシコに戻るという強硬スケジュールが、試合のたびに課せられます。
会場がカリフォルニアとなる1、2戦目は、陸路で3時間かけていくそうです。シアトルへは、もちろん飛行機です。
さらに、イランでは、アメリカとの戦闘によって、3月から国内リーグが中断されています。チームの3分の2ほどが国内リーグ所属です。試合勘を取り戻すための合宿は、トルコまで行って行いました。
■“レジェンド”語る苦難と希望
これらは、どれほどのハンデなのでしょうか。
イラン代表史上最多、151試合に出場した経歴を持つ、イランサッカー界のレジェンド、ジャバド・ネクナム氏(45)。イラン代表が置かれている現在の状況を、こう見ています。
ジャバド・ネクナム氏 「(Q.開催国と戦闘状態のイランの代表が制約を受けていますが)イランで起きたことは、大変、悲しく残念であり、それはW杯にも、きっと表れます。試合に集中することが困難であることはわかっています。選手たちは、ピッチに入る前から、頭を切り替えないといけないからです。ここ数カ月、ずっとそうでした。(Q.FIFAやアメリカ政府に望むことや伝えたいことはありますか)とにかく、みんなに楽しんでほしいです。W杯は、本当に素敵なので、うまくいってほしいです。すべての国やチームが楽しんでプレーできて、試合の一瞬一瞬を満喫することを望んでいます」
グループリーグを突破すれば、アメリカとの直接対決の可能性もあるイラン。
30年近く前にも、ワールドカップで両国が対戦したことがあります。
最高指導者のハメネイ師から、アメリカとの握手を禁じられていた選手たちは、平和の象徴として白いバラの花束を贈り、世界を驚かせました。国家間の対立を、アスリートが超越した歴史的場面です。
ピッチのみならず、観客席にも広がった両国の融和。この試合で、イランはワールドカップに初勝利を刻みました。
■“試合当日”に長距離移動
アメリカがホスト国になっている今回のワールドカップ。イラン代表にとっては、苦しい条件が重なっています。
厳しい条件の一つが、試合会場の移動です。 イラン代表は、当初、キャンプ地をアメリカ国内に予定していましたが、アメリカの反対を受けて、メキシコ・ティファナに変更。第1戦のニュージーランド戦と第2戦のベルギー戦を、ロサンゼルス、第3戦のエジプト戦はシアトルで行います。メキシコからロサンゼルスまでは約230キロ。シアトルまでは約1700キロ。アメリカの入国ビザが試合当日しか許されていないため、試合当日にこうした長距離移動を行うことになります。
移動距離も考えて、どこをキャンプ地にするか、日本代表も入念に選んでいました。 日本代表の場合、キャンプ地はナッシュビルで、第1戦、第3戦の会場はダラス。第2戦はメキシコのモンテレイで、長距離の移動はありますが、2日前までに試合会場近くに移動・宿泊して、コンディションを整えることができます。
ロサンゼルスまでの230キロ。イラン代表は移動できそうな気もしますが、かなり過酷です。 例えば、第2戦の試合開始時刻は昼の12時ですが、大会規定では、試合の1時間半前には会場入りしなければなりません。遅くても、午前10時半までには会場入りしないといけません。キャンプ地のメキシコからロサンゼルスまでは、バスで3時間ほどかかるため、午前7時半に出発となりますが、渋滞や、国境通過のための入国手続きをするため、かなり早朝に出発しなければならない。しかも、試合が終わったら、直ちにメキシコに戻らないといけません。
■スタッフ入国にも“制限”
移動のほかにも厳しい条件が、イラン代表にはあります。
サッカーの試合では、選手・監督・コーチ陣のほかに、医師・トレーナー・理学療法士なども試合に同行しますが、ニューヨークタイムズによりますと、今回、イラン代表は、一部のコーチやトレーナー、医療スタッフなど十数人が、アメリカに入国するためのビザの申請を却下されたといいます。いつもチームを支えるメンバー全員で試合に臨むことはできません。
イラン代表は、アメリカと直接対戦する可能性もあります。
イランのFIFAランキングは20位。 グループGの組み合わせをみると、ニュージーランド(85位)、ベルギー(9位)、エジプト(29位)で、ランキング上では上位。ここを2位で通過して、別グループにいるアメリカも2位通過すれば、決勝トーナメント1回戦で、直接対決する可能性もあります。









