TSMC熊本工場の内部へ④ 世界的半導体企業が熊本を選んだ理由…

TSMC熊本工場(熊本県菊陽町)
世界最大手の半導体受託製造企業、台湾TSMC。2024年内に本格稼働する熊本県菊陽町の工場内部を単独取材した田中杜旺アナウンサーは「世界最先端技術を用いて、システム化された水処理を構築している点が強く印象に残った」と話します。
熊本工場で働いている人の6割は日本人。熊本工場を運営するJASMの担当者は「地下水は熊本の宝であると認識して、大切に使わせていただいてる」と話していました。一方で、関係者からは、熊本に進出したのは「水が理由というわけではない」との声も聞かれました。
TSMCが熊本県に進出した理由とは…

熊本工場開所式(2024年2月)
熊本県へのTSMCの進出が公表されたのは、2021年。この時、熊本県は、半導体生産に必要な水が豊富であること、アクセスの良さが進出の理由ではないかと説明していました。
熊本への進出をめぐっては、さまざまな見方があるなか、今回改めて、JASMの堀田祐一社長から回答がありました。
「半導体工場の立地に様々な検討要素があり、総合的な判断を要していますが、JASMの立地として熊本を選んだ理由は主に3つあります。
1つ目はお客様のニーズです。信頼できる技術と生産能力を提供するファウンドリーとして、私たちは熊本の新しい工場でお客様により近づき、お客様のニーズに合わせて製品を製造することを目指しています。
2つ目は熊本既存のインフラ環境とサプライチェーンです。熊本全県には半導体関連企業が多く立地されており、すでに半導体のサプライチェーンが形成されています。特にJASMの立地するセミコンテクノパークには、工場立地に必要なインフラやリソースが整備されており、これを基盤としてJASMが今後熊本で発展し、成長していくと確信しています。また、熊本は九州のへそであり、九州各県へのアクセスがよく、県外の半導体関連企業との連携も図りやすいです。
3つ目は人材です。シリコンアイランドと呼ばれる九州には、大学、高専から優秀な人材を輩出している。熊本は九州の中心部に位置しており、JASMは熊本から地元、または九州、日本の優秀な人材にアクセスできることが期待されています。
熊本に立地したJASMは、良き隣人として、地元の皆様に誇りに思う企業を目指しています。地域に還元し貢献できるよう、社員一同環境保全に取り組みます(回答原文のまま記載)」
TSMC進出が公表されてから、度々取りざたされている地下水は、進出理由には入っていません。TSMC関係者も誤解されていることが多いと話します。

熊本工場の水処理施設
今回取材した熊本工場の水処理施設。半導体製造に必要な“超純水”は、地下水に限らず、技術的にはダムの水からも作ることができるとのこと。さらに、平均3.5回再利用し、排水の水質まで監視するシステムが構築されています。
欠かせない半導体 世界的に懸念される資源とは…
半導体分野では、水以上に注目されている資源があります。
東京大学などで研究を続けてきた国内の半導体研究の第一人者、熊本県立大学の黒田忠広理事長は「水以上に懸念しているのが電力、エネルギー。2025年すぎくらいから、世界的に見て電力の需給が逼迫します」と話します。

黒田忠広 熊本県立大学理事長
「経産省の説明では、これからの日本が必要としている電力の不足を補うには、原子力発電所5基分が新たに必要になると。その5基のうちの1基は、半導体の製造に必要。残り4基は、半導体を使ったデータセンターの稼働に必要とされています。地球環境を保全しながら、いかに電力を確保するか、半導体製造に使う電力をいかに節約するか。2つの技術研究開発が重要なテーマになると思います」
電力供給の問題は、日本だけでなく世界全体の重要なテーマになるというのです。
こうしたなか「電力の供給能力が十分にあること、エネルギー効率の高い最先端の半導体を製造する能力が高いこと、2つが揃っている地域として、日本、とりわけ九州が注目されているのは間違いない」といいます。
現代の生活に不可欠な半導体。国の経済安全保障を左右する戦略物資として各国が誘致合戦に力を入れる中、その先にどのような影響があらわれるのか。見つめていく必要があります。