
74年前に起きた殺人事件をめぐりハンセン病とされた男性が事実上の非公開の特別法廷で裁かれ、無実を訴えながら死刑が執行された「菊池事件」。全国的に注目される中、熊本地裁は再審開始を認めない判断を示しました。
70年以上前に発生「菊池事件」とは

1951年、熊本県北部の村(現・菊池市)の元職員の家にダイナマイトが投げ込まれる殺人未遂事件が発生。翌年の1952年、その元職員が刺殺される殺人事件が起きました。「菊池事件」とは、この2つの事件のことです。
逮捕されたのは当時28歳の男性。殺害された元職員は、男性をハンセン病患者だと県に報告していて、男性の逆恨みによる犯行とされました。
当時は、国が「無らい県運動」を掲げ、ハンセン病患者を療養所に強制隔離する政策が官民一体で推し進められていました。
男性が裁かれたのは、現在の合志市にある国立ハンセン病療養所菊池恵楓園やハンセン病患者専用の菊池医療刑務所に設けられた「特別法廷」。隔離された法廷で、事実上、非公開で行われ、男性以外は予防着を着用、証拠物は火箸で扱い、まともな弁護も受けられませんでした。
特別法廷を傍聴した経験を持つ菊池医療刑務所の教誨師は、かつて次のように語っています。
「虫けらのごとくですよ、ここは全く別世界何をしてもいいという感じだった」
男性は無実を訴え続けましたが1953年に死刑判決を受け、再審を求めましたが1962年に死刑が執行されました。
その後、菊池恵楓園の入所者自治会長だった志村康さんらハンセン病の元患者らが原告となり、特別法廷で死刑判決を受けた「菊池事件」の審理を違憲と訴える訴訟を提起。熊本地裁は2020年に特別法廷の違憲性を認める判決を下しました。

故・志村康原告団長(当時)
「こんな難しい裁判はないと言われ、その裁判に勝ちました。私たちが言っていたことが、いかに正当であったか裁判長が正義を認めてくれた」
この翌年、遺族らが死刑判決を受けた殺人事件の裁判のやり直しを請求し、去年7月まで裁判所・検察・弁護団で協議が重ねられてきました。
請求棄却…「残念です」

弁護団は、特別法廷で裁かれたという裁判手続きの違法性と証拠となった凶器や親族の証言に矛盾があると訴え、新証拠を提示。再審開始が認められるのか、裁判所の判断が注目されていました。
27日夜に開かれた集会では、ハンセン病国賠訴訟全国原告団協議会長の竪山勲さんが「本来ならこの場に立つのは志村でありました。志村とともに再審無罪を勝ち取りたい」菊池恵楓園入所者自治会の太田昭会長も「あすは裁判長の歴史的な英断を期待しております」と述べていました。
そして28日午後2時すぎ。地裁から出てきた弁護団が掲げた旗は「不当決定」「憲法的再審事由を認めず」。熊本地裁は裁判手続きの違法性と新証拠を裁判やり直しの条件とは認めず、再審開始を認めないとする決定書を交付しました。

竪山勲会長
「残念です。こんな判断をするとは思いもしなかった」
太田明会長
「大きな期待外れでした」
弁護団は会見で「福岡高裁に不服を申し立てる」考えを示しました。
弁護団・徳田靖之共同代表
「どんなに長くなり、どんなに苦難に満ちた戦いであろうとも、無実を明らかにするまで最後まで戦いたいと思います」
【解説】新証拠と違憲性
弁護団が再審開始を求め、主張していたのは主に2点です。
「新証拠」
法医学者と心理学者への裁判での尋問から、凶器とされた短刀ではできない傷があったこと、親族の供述は警察に誘導されたものだったとしていましたが、核心部分の信用性を揺るがすものではないとして認められませんでした。
「裁判手続きの違憲性」
憲法に違反した手続きによる判決は無効と主張。2020年に熊本地裁は特別法廷での裁判は違憲としていましたが、今回、再審は認められませんでした。

これに対し、「くまもとLive touch」コメンテーターの渡辺絵美弁護士は、次のように話しました。
「憲法違反の裁判手続きが許されるはずがない。元々定められてる再審事由には、裁判所が憲法違反の裁判手続きをするはずがないというところから、再審事由のなかに、憲法違反はあげられていないのだと考えます。だからこそ、今回の判断が注目されました。
今回、、裁判所は、実際に憲法違反の手続きだったと認めたうえで、さらに重大な憲法違反があったことによって、重大な事実誤認をきたした場合は再審の余地もあるとしている。ただ、今回の事案に関しては、仮に憲法に適合する審理をしていたとしても、事実誤認をきたさなかったから認めなかったという判断をしている」
かつて死刑を宣告され、再審無罪を勝ち取った静岡の袴田巖さんの姉ひで子さんは、今回の熊本地裁の判断ついて、次のように話しました。

「再審って難しくてね、巌の場合は奇跡みたいなもんですよ、再審開始になったのは。つくづく思う。たまたま、いい裁判官に巡り合わせて、たまたま無罪になったけどね。法律を変えていかないと、それに向かって戦わないといかんと思う」
弁護団は高裁に不服を申し立てるとしています。












