ある日、僕は「軽薄なる裏切り者」に成り下がっている自分に気がついた。僕は数ヶ月前の、このコラムで、どんな嫌がらせや迫害に遭おうと喫煙は辞めない声高らかに宣言したことがある。ところが、その舌の根も乾かないうちに、禁煙を余儀なくせざるをえなくなった。愛煙家の皆さんに対しては正に裏切り行為である。

といっても僕の愛煙宣言に抗議の声が殺到したとか、コケボウはじめ社内の無知蒙昧の禁煙派の輩から圧力がかかったから、というわけではない。その類(たぐい)であれば、僕は徹底抗戦することにやぶさかではない。どんな圧力がかかろうと、一本たりともタバコを減らすつもりはなかった。

ところが、降って湧いたように左足の激痛に見舞われ、事態は急変した。どんな薬も注射も効力がなかった。この件は前回のコラムに書いたので、詳しくは省略する。ともあれ某病院に担ぎ込まれ、手術をするか、このまま激痛に苛まれるか選択を迫られた。その際、院長先生「禁煙しなければ、手術はできません」とのたまわれた。

先生の説明によると、手術は全身麻酔で行うが、タバコを吸っていると、麻酔の効き目が落ちる。少なくとも一週間前からの禁煙が必要だ。さらにタバコは神経にとっても最悪で、手術後の回復も保証しかねる。この際、禁煙してください、というわけだ。瞬間、僕は言葉を失った。先生はさらに「このままゴルフもできず、一生、痛みに耐えていくか、手術で痛みを失くすか。あなたの人生ですから、どちらか選択してください」と駄目押し。となると、僕に選択の余地はない。

かくして禁煙に踏み切った。手術前の一週間。ひたすら激痛に耐えるだけで、タバコのタの字も浮かんでこなかった。手術後、左足の激痛はウソのように消えたが、タバコを吸おうという気にはなれなかった。仮に吸いたいと思っても、歩いて買いに行けるわけもない。僕は禁断症状がやたらと心配だったが、タバコを吸わないからといって、イライラするわけでもなく、何の症状もでなかった。

僕は心ならずも禁煙家に「転落」した。いくら治療に必要だからとはいえ、やはり、これは愛煙家に対する裏切り行為だろう。なんとなく後ろめたい気もする。もちろん愛煙家を糾弾する気は毛頭ない。これからも愛煙家の弁護は続けていきたい。いまや愛煙家は少数民族になりつつあるのだ。

てなことを病院に見舞いに来たコケボウに喋った。当然のごとくコケボウは鼻先で「ふん」とせせら笑った。「禁煙、禁煙と偉そうにいうけど、どこまで耐えられるものやら」と言わんばかりだ。どうも僕の行く末を見透かしたようなところもある。

さて僕は3週間以上の入院生活に耐え、昨日、退院した。まだ当分は自宅療養が必要だそうだが、そうもいかない。自宅療養を続けたつもりで、ボチボチ仕事もこなしていかなければ。というわけで、本日から出社した。周囲を見渡せば、喫煙への誘惑が渦巻いている。果たしてどこまで、この誘惑に勝てるか。再び愛煙家に「昇格」したとしても、院長先生の手前、禁煙を続けていることにしておこう。

コケボウのひとこと

「ふん!」とも言いたくなりますわ。
麻酔が効かない、となるとできる禁煙も、手術も無事終わり、痛いところもなくなったとなると、どこまで続くのか全く信じられたものではありません。
「昇格」する日もすぐそことワタシは読んでいます。
だって・・・編成局長と病室を訪ねた時「タバコのにおいがする!ううぅっ」と局長を睨み付けたのはどなたでしたっけ?
原稿を取りに伺った時も「動くことがリハビリ」途中で中座したのは、もしかして??
立派な個室には化粧室も完備されているのに、病室を出てどこにいらしたのですか??
昨日が退院と聞いていたので、きょうはサスガにお休みだろうと思ってゆっくりしていたのに「社長、出社されてますよ」という秘書室のお姉さまの言葉に、慌ててガッツリ働くハメに・・・。
出社も禁煙も、ボチボチになさいませ。(決してサボりたいから言ってるわけではない)
どちらも焦ると元の木阿弥になりますよ。