飲酒運転で女性をはね、死亡させた罪などに問われている男の裁判員裁判で20日、被告人質問が行われました。また、被害者の遺族が意見陳述で「どんな謝罪をされても、許すことはできない」と訴えました。
起訴状などによると、熊本市中央区に住む元飲食店従業員、松本岳被告(24)は、去年6月、中央区細工町で追突事故を起こして現場から逃走しようとし、車を時速約70キロから74キロでバックさせ車線を逆走。その後、急ブレーキをかけ進路を変更した先で、歩道の変圧器に衝突し、熊本市児童相談所職員の横田千尋さん(当時27歳)をはね、死亡させたなどとして危険運転致死傷と酒気帯び運転の罪に問われています。
松本被告は19日の初公判で「止まらなければと思ってブレーキを踏んだ」と起訴内容を一部否認。危険運転致死傷罪が適用されるかどうかが争点となっています。
20日の被告人質問で、飲酒運転をした理由を問われた松本被告は「当日は時間に追われて車で出勤した。酒は飲まないつもりだったが、仕事で勢いに流されて飲んでしまった。自分は大丈夫だろうと軽い気持ちで飲酒運転をした」としました。
また、事故直前のトラックへの追突事故やバック走行については「眠気が来てウトウトして追突事故を起こした。飲酒運転がばれるのが怖く、その場から離れたくて、バックで思い切りアクセルを踏んだ」としました。
被害者や遺族に対しては次のように述べました。
「自分の身勝手で愚かな運転により、横田千尋さんの尊い命を奪ってしまい、本当に申し訳ございませんでした」
また、20日午後には横田さんの父親が意見陳述を行いました。
「大きすぎる喪失感と無念で毎日が地獄のような日々です。被告人の行動を考えると、殺人としか思えません。
被告人からどんな弁明や謝罪をされても、動機や行動には同情や共感できる事情は何も見当たらず、千尋の無念を思うと許すことはできません。可能な限りの厳しい処罰を求めます。
ルールを守る人間がルールを破る人間に害されることがない社会になることを、悲惨な思いをする人間を生むような事故や事件が根絶されることを心から願っています」
裁判は21日に結審し、27日に判決が言い渡される予定です。
■被害者父の意見陳述要旨
志半ばで無念の思いで天国に行ってしまった千尋に対し、親としてできることは、この裁判に参加し、事件と向き合うことだろうと千尋の遺族を代表してこの裁判に参加し、意見陳述をすることにしました。
被告人が社会のルールを逸脱し、自己の性的欲求に流され、酒を飲んで車を運転し、居眠り運転をし追突事故を起こしながら、事故の発覚を逃れようと救護も通報もせず、前方直進でも速度違反となるほどの高速度で逆走しながら後退し、運転を制御できずに蛇行運転し、最期には運転する車両を車道からも逸脱させた結果、娘の千尋は車と信号機の間に挟まれて即死しました。娘の同僚には肉体的な怪我だけでなく、大きく深い心の傷を負わせました。
私は、毎日が地獄のような喪失感と無念の日々ですが、周囲の慰めもあり、理性的であろうと努力してきたつもりです。今回の裁判での被告人の行為が殺人罪ではなく、危険運転致死罪として裁かれていることも頭では理解しているつもりです。
ただし、被告人からどんな弁明をされても、謝罪をされても、社会のルールを破る行為を何度も重ねた結果、社会のルールを守り何の落ち度もなかった千尋を死なせた被告人の動機や行動には同情や共感できる事情は何も見当たらず、千尋の無念を思うと、正直な気持ちとして、被告人を許すことはできません。
最後になりましたが、ルールを守る人間が、ルールを破る人間に害されることがない社会になることを、悲惨な思いをする人間を生むような事故や事件が根絶されることを、心から願っています。