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2025年12月21日 10:00
新築物件の5割空室?TSMC周辺地域「かなり想定外」一方で活況の市場は

 世界一の半導体受託製造メーカーTSMC。熊本県菊陽町への工場進出で、3400人の雇用を生み、関連企業の進出も相次いだことから、周辺地域ではマンションの建設ラッシュとなりました。しかし今、空室が増えているといいます。

TSMC第2工場はいつ…

 菊陽町に隣接する大津町に今年7月に完成した新築物件を訪ねました。2LDKで、家賃は駐車場付きで6万8千円。JR肥後大津駅まで徒歩10分、TSMCまで車で10分弱と好立地ですが、空室となっています。

 管理する、あゆみ不動産の松永社長は「TSMC第2工場の工事の遅れが原因だと思います。かなり想定外で、1年も着工が遅れるとは想像していなくて…」と話します。

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 当初、2024年後半に着工予定とされていたTSMCの第2工場については「2025年3月までに」さらに「2025年内に」と徐々に後ろ倒しされました。これにより、土地の買い手や熊本進出予定企業が様子見に転じ、土地価格の上昇も鈍化。その後、今年10月に着工が正式発表されましたが、不安は解消されていないといいます。

 「工事も遅れて入ったんですけど、現状止まっているようで、このまま本当に工場が完成するのか…」

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 着工が発表された10月、第2工場の建設現場には、かなりの数の大型の重機が見られましたが、12月中旬、現地には大型の重機がほとんどなく作業員の姿も減っています。

 周辺地域の賃貸物件は、工事関係者や工場の従業員の入居を想定しているといいます。松永さんは「建屋建設が始まると、かなりの工事業者さんが来られるので、まずはそこを狙って建てているんですけど、全く来ない状態になっているので、かなりだぶついている状態。新築だけでいえば、半分空いているところがかなり多い」と語ります。

 国会議員や経済産業省の関係者によると、第2工場では6nmから40nmの半導体を製造する予定でしたが、より微細な高性能の半導体を製造するため、設計変更の期間を設ける目的で実質的に工事が止まっている状態とのこと。

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 熊本工場を運営するJASMは「TSMCの日本におけるプロジェクトは継続的に進行している。現在、建設作業の詳細や実行計画についてパートナー会社と協議している」とコメントしています。

 「前向きな遅れ」と関係者は将来に期待を込めますが、空室をかかえる不動産業界では大きな痛手。熊本県内の不動産関係者によると「空室率100%の賃貸マンションもある」「たまらず手放すオーナーも多い」など、厳しい状況に置かれているといいます。

熊本への不動産投資に熱視線

 熊本に住む台湾出身者は2024年12月で1919人と、TSMCの進出決定前と比べ8.7倍に。台湾出身者が増える中、熊本に台湾の不動産会社が進出しています。

 日本1号店を熊本に開設した「太平洋不動産」の内覧ツアーに同行しました。

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 TSMCをきっかけに熊本に着目したという台湾の不動産経営の女性は、すでに4000万円の戸建て住宅を合志市で購入。さらに、セカンドハウスとして、また投資目的で4000万円から8000万円の戸建て住宅を探しているといいます。

 敷地面積およそ69坪、3台分の駐車場つきで5490万円という熊本市東区の住宅を内覧し「台湾では駐車場がなくて、すごく高い。インターナショナルスクールも近くにあって、利便性も良いので気に入りました。環境もよくて、食べ物もおいしいし、熊本はすごく好き。熊本に住みたいので、日本語の勉強に行こうと思っています」と話します。

 前日に内覧した8000万円の阿蘇の別荘も気になっているそうです。「TSMCが進出しているので、10年、20年の長い目で見ると、絶対に不動産価値は上がると思います」と期待感を口にします。

 太平洋不動産の侯さんは「当初はTSMCの工場があるエリアを中心に物件情報を収集していましたが、最近は新しい物件がないので、熊本市や益城町などの新築物件を紹介している」といいます。

世界的企業が与えるインパクト 

 熊本に大きなインパクトを与えている世界的企業の進出。海外では、まちづくりが翻弄されるケースもみられます。

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 都市計画が専門の熊本大学・本間里見教授は「AppleやGoogleなど世界的なIT企業が集積するアメリカ・サンノゼでは、家賃が高止まりしIT関係以外の低所得者層が追い出されてしまった」として「最悪のケースはTSMCが撤退すること、撤退すれば他の関連企業も全部撤退することになるので、ガラガラのマンションが…。という話になりかねない」と指摘。

 一方で「TSMCが町のことも考えて、一緒につくっていってくれるという状態になれば、新都心みたいな形になると思う。そこは楽観的に見ていますし、その可能性の方が高いとは思います」として「発展のためには、食や文化など町の魅力を高める努力が必要」と話しています。

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