
熱戦続く夏の高校野球熊本大会。音と闘いながら、野球を続けてきた選手もいます。
玉名高校3年の鶴山櫂士さん。チームメイトから「カイジ」の愛称で親しまれているムードメーカーです。この夏、4番キャッチャーの大役を任された鶴山さん。実は、ある事情を抱えています。
「走ると風の音も入って、周りの音がシャットダウンされる」
鶴山さんが抱えるのは「前庭水管拡大症」。内耳の異常によって引き起こされる先天性の疾患で、進行性の難聴、聴力の変動、めまいなどの症状があると言われています。
保育園に入る前から両耳に補聴器をつけて生活し、4歳から熊本聾学校の幼稚部へ。専門家のサポートによって、言葉が成長したそうで「多分、世界が広がったと思います、本人は」と母・徳子さんは目を細めます。
「野球やってみたい」聾学校から玉名高校へ
熊本聾学校の幼稚部から地元の小学校へ入学した鶴山さんが出会ったのが野球でした。
「ホークス戦を見に行ったときに、甲斐拓也選手(当時)が打っていたし、キャッチャーで守ってて、かっこいいなと思って、野球がしてみたいなと思って」
かかりつけの医師からは「補聴器に汗が入るのも良くないし、ボールが当たる可能性もあって、あまりおすすめはできない」と言われたそうですが、所属した少年野球クラブでは、5番バッターを任されるまでに成長。当時の監督は「声の指示がなかなか届かない中でも、何をやったらチームのためになるかを考えてプレーしてくれていた」と語ります。

中学では、再び熊本聾学校へ。平日は寄宿舎で暮らし、土日に地元へ戻ってはクラブチームで野球を続けるなかで、コーチの言葉が次の扉を開きました。
「高校野球をした方がいいんじゃないかって」
聾学校の先生たちの熱いサポートのもと、勉強とスポーツを両立できる玉名高校への進学を決めました。
めまいや頭痛に悩まされ、順風満帆ではなかったといいますが、多くの人に支えられ、この2年半を走り抜けました。
そのなかで、好きな音があります。
「キャッチャーでも、自分がバッターでも、『カキーン』の音は絶対入ってくる。木製バットの乾いた音は気持ちよかった」
補聴器越しに拾う音が、プレーの充実感と結びついていました。
高校最後の夏「みんなのスマイルをゲット」

迎えた高校最後の夏。初戦の天草戦は、序盤から大量失点を喫し、チームの動きが硬くなっていきました。

「守備も乱れ始めてて、気を引き締める感じでマウンドに行って、『まだまだ後があるけん』って言って、みんなのスマイルをゲットしました」
笑顔を取り戻した玉名ナインは、その後の猛攻で一気に逆転。鶴山さん自身はヒットこそ出なかったものの、3つの出塁でチャンスを演出し、玉名の5年ぶりの夏一勝に大きく貢献しました。

「いいキャッチングした時のミットの乾いた音も聞こえたし、いい試合ができて、とても満足です」
しかし、2回戦。必由館を前に、鶴山さんの高校野球は幕を閉じました。
「よう頑張った。お前のその姿見れてよかった」
試合後、熊本聾学校時代の恩師に声をかけられ、こらえていた涙があふれ出ました。

「自分がこんな大きく成長できたところも、先生たちに見せられて、とてもうれしかったです。少年野球の監督とも会えて、ほっとしたのか、涙が出てきました」
高校野球を終えた鶴山さん。大きな目標があります。
「僕の将来の夢は、学校の先生になって、いつかは、聾学校に戻って恩返しできるような人生を過ごしたいと思います」

同じ聴覚障害を持つ後輩たちに、普通の高校で過ごす大変さも良さも伝えていきたい。そして、グラウンドに駆けつけてくれた恩師と、いつか同じ職場で働きたい。
難聴と闘いながら、グラウンドで笑顔を見せてきた鶴山櫂士さん。夢に向かって歩み続けます。
(「くまもとLive touch~フルスイングな人~」7月14日放送)













