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2025年10月28日 19:30
住民100人に聞いた「長射程ミサイルの配備」 熊本は標的になる?ならない?専門家の見解は

 熊本市の健軍駐屯地への長射程ミサイル配備をめぐり、県内各地で市民団体らが反対の声をあげています。

「長射程ミサイル配備に関心を持っていただき、私たちとともに反対の声をあげてほしい」

 ミサイル配備によって、熊本は危険な状態になってしまうのか?生活は守れるのか?守れないのか…住民へのインタビューとともに専門家に見解を聞きました。

「長射程ミサイル」配備計画とは

「令和7年度および令和8年度に健軍駐屯地に配備させていただきたいと考えております」

 今年8月、熊本県庁を訪れた九州防衛局の伊藤和己局長が伝えたのはミサイル配備の方針。来年3月ごろ、健軍駐屯地の第5地対艦ミサイル連隊に「12式地対艦誘導弾能力向上型」を配備する計画です。

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 射程はおよそ1000キロとされ、圏内には中国沿岸部の基地や上海などが入ります。台湾有事を念頭に、中国への抑止力を高める狙いがあるとみられています。

 攻撃を仕掛けず守りに徹する「専守防衛」を掲げる日本ですが、岸田政権下の2022年、「日本周辺における安全保障環境は戦後、最も厳しい状況にある」として、反撃能力を保有することを決めました。

 健軍で100人に聞いた「ミサイル配備」の是非

 健軍駐屯地に配備される「12式地対艦誘導弾能力向上型」は反撃能力を持つ初の国産長射程ミサイル。地元の住民はどう捉えているのでしょうか。健軍商店街で100人に聞きました。

「反対。戦争が起こるかもしれんよ。嫌よ、戦争を知っているから小学2年生だったよ」(80代女性)

「最近、修学旅行で戦争のことを学んで、こういうことをやると、こっちにも被害がくるし、戦争とかみんな亡くなったりするから反対かな」(小学生男子)

「賛成にしとこう どこかには置かないといけないからね。守らないといけないから、あまりにも受け身だけだと日本が弱くなってしまう」(70代男性)

「国を守ることも大事だろうけど、地元にミサイルが置かれるということは怖いなと。やっぱり標的になる可能性があるんで、相手からすると。怖いなと思います」(30代男性) 

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 ミサイル配備について、健軍商店街で100人に聞いたところ、賛成は12人、分からないが32人、反対が56人という結果でした。

熊本は標的になる?ならない?

 住民が心配する熊本への攻撃。2人の専門家に聞くと、正反対の答えが返ってきました。

「抑止力は一瞬」

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 元中日新聞の記者で防衛省、自衛隊への取材を30年以上続けている防衛ジャーナリスト半田滋さんは「戦争になった場合に、米軍基地や自衛隊の施設が攻撃されるのは当たり前。ただでさえ、健軍駐屯地は攻撃されやすい。加えて、そこに中国まで届く長い射程のミサイルが置かれるようになれば、なおさら攻撃の対象になる」と話します。

 防衛省は、反撃能力を持つことで、相手に攻撃を思いとどまらせる効果があると説明していますが、半田さんは抑止力は一瞬だと指摘します。

中国の特徴としては、核弾頭を積んでいない通常弾頭型のミサイルをたくさん持っているのがアメリカやロシアと比べて大きな違い。つまり、実戦で使えるようにしてある。そのミサイルが何千発、何万発あるかもしれない」

「日本は健軍駐屯地に置かれるタイプのミサイルが全て合わせても、100発前後、あるいは多くても数百発だろうと。そうすると、大人と子どもの戦いですから、抑止力が強まるのは一瞬でしかなくて、むしろ攻撃を呼び込みかねない。危険を招くようなことになるのは、間違いないと思いますね」

「可能性は限りなく低い」

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 一方、元陸上自衛隊中部方面総監の山下裕貴さんは、標的にはならないと主張しています。

「結論から言えば、私はありえないと思います。陸上自衛隊の場合、駐屯地は防衛作戦準備になると部隊が出ていくわけですよ。有事になると、もうそこにはいない。『きょう、あす撃たれたら、どうするんだ』という素朴な疑問があると思うんですよ、奇襲ですよね。それはありえないです」

「ウクライナ戦争を見ても分かるように、大きな国が戦争するときに、情勢は数年単位で悪化していって、本当に戦争が始まるときには、軍隊が演習というかたちでで移動するわけです。(標的は)目標に高い価値があるかどうかで選択していきます。何もない軍司令部を撃っても、防空壕もあるだろうし意味がない。一発数億円、数十億円するようなミサイルはそこには使わない。私が相手方の司令官だったらインフラを撃ちます。熊本の半導体工場、都市ガス、石油精製施設、変電所が狙われる。そっちの方を心配したほうがいい

 ただし、そもそも日本国内が標的になること自体、可能性は限りなく低いと語ります。

中国が台湾有事で最もやりたくないことは、アメリカと(戦争を)やることですよ。日本にミサイルを撃ち込んだら、日本は日米安保条約の発動を求めますよね。自動的にアメリカが出てくることになりますから、可能性は極めて低いんです」

説明ないまま…募る住民の不安

 果たして、心配する必要はないのか?住民からは説明不足を指摘する声も多くありました。

「(説明は)ないです、足りてないと思います」(60代女性)

「何か情報あった?こういう風に受け入れると県とかが、それがないでしょ。勝手にいきなりよ。こんだけの人たちが住んでいて、この民主主義の世の中にいいんですか、私は声を大きくして言いたい」(70代女性)

 9月県議会で、立憲民主連合は「ミサイル配備で攻撃の対象になる可能性は否定できない」とし、慎重な検討や説明会の開催などを国に求める意見書を提出しましたが、自民党県議団などが反対し否決されました。

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 このとき、反対討論に立った自民党県連の南部隼平議員は「あたかも自衛隊が危険を増しているような表現の部分などは違うんじゃないか、ということで、意見書すべて丸のみにして、賛成ということは難しいという判断」と説明します。ただし、住民への説明は必要に応じて行いたいとしました。

「自衛隊のみなさま。防衛省のみなさまにも、しっかりそこを進めていただきながら、我々も住民の理解を深めていく努力を続けていかないといけないと思っています」

 熊本県の木村知事は「国の専管事項のため是非を述べる立場にない」として国に説明を求める姿勢を貫いています。

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 九州防衛局のホームページにはQ&Aや電話窓口が掲載されてはいますが「クリックして見てください、ではなくて、きちんと各家庭にわかるように、文書なりちゃんと提示してもらわないとわからないんじゃないかなと思います」という声も聞かれました。

 住民の理解が得られないまま決まった健軍駐屯地への長射程ミサイルの配備をどう捉えればいいのか。住民が判断するための材料は十分とは言えない状況です。

(「くまもとLive touch」10月27日放送)

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