
熊本地震から10年。当時、臨月を迎えていた女性は、相次ぐ地震の恐怖と闘いながら、出産に臨みました。
「とにかく怖くて、せっかくここまで、お腹の中で育ててきたのに、産めずに死んでしまうんじゃないかなと思いました…」
熊本市在住の岡本裕実さん。10年前、初めての出産を控えていました。
予定日は4月11日。予定日を過ぎても生まれず、14日の前震が起きたときは、1人で自宅のアパートにいました。大きく揺れた瞬間、お腹を守るため、テーブルの下に隠れてお腹を支え、テーブルを押さえたといいます。
「揺れが収まった後にすごく怖くなり、パニックになり、主人に会いたい一心で車を運転して、主人の職場まで向かいました。本当に怖かったのが一番記憶に残っています」
余震が続く中、その日は車中泊避難。そして、翌日の夜、陣痛が始まりました。
「15日の午後11時くらいからお腹が痛くなり始めて、病院に行って診察してもらったら『まだ生まれません』と言われて、いったん帰りましょうと、着替えているところに本震だった…」
2016年4月16日午前1時25分、「本震」と呼ばれるマグニチュード7.3の地震が熊本を襲いました。病院がある熊本市東区は震度6弱。院内は棚が倒れて、通路がふさがれました。
「心の底から、神様、どうかこの子を産ませてくださいと、この子が無事に産めたら全力でこの子を育てていくので、どうかお願いしますと祈っていました」
分娩室で対応にあたった看護師長の井芹梨沙さんは「自分たちの命も含め、大丈夫かな…と不安がよぎりました。陣痛の中、一生懸命、頑張っているお母さんを見ると『守らなければ』と使命のようなものを感じて、できるだけ声をかけて不安にならないようにと思っていました」と語ります。
本震の後も、相次いで余震が襲うなか、病院の職員や夫の亮寅さんに支えられ、裕実さんは、16日朝、無事に男の子を出産しました。
「本当に無事に生まれてきてくれて、本当に良かったなと思っています」
大きな幸せがありますように――そう願いを込めて「幸大」と名づけました。

「アパートは、冷蔵庫も棚も倒れているし、クローゼットの扉も全部外れて倒れている状況だったので、陣痛があって『病院に行った方がいいよ』って幸大が教えてくれたのかなって。お腹の中から『危ないよ』って、今でも、命の恩人だよって、幸大ありがとうって」
このときのアルバムには、「陣痛+地震の不安と恐怖の出産!」という言葉とともに、「あっくん(夫)も私もLDRにいたから無傷。ベビちゃんが守ってくれた」とコメントを添えました。

今年、10歳になる幸大さん。3人兄弟の長男として、弟たちを世話したり、家事を手伝ったりしてくれるようになりました。
「無事に、ここまで大きく育ってくれて、本当にうれしいなと思います。どんなに反抗してきても、どんなに嫌なことを言ってきても、やっぱり宝物には違いないと思っています」
熊本地震の直後は、不安でよく泣いていたという裕実さん。家族や周りの人に支えられ、日々を乗り越えてきました。

「今この一瞬をとても大事にしないといけない。次の瞬間、何が起こるか本当に分からないと思うので、日ごろから周りの人に感謝の気持ち、謝るべき時はちゃんと謝ったり、大好きだよという気持ちを伝えるようにしています」













