
熊本市西区の慈恵病院が2007年に開設した「こうのとりのゆりかご」。5月10日で開設から19年を迎えます。
乳児の遺棄を防ぐことを目的に、親が育てられない子どもを匿名でも預かる仕組みですが、子どもの出自を知る権利をいかにして保障するか、などの課題もあります。
「当時、非常に議論を呼び起こしたシステム。安易な育児放棄や子捨てが社会にまん延するのではないかという声もあった」と慈恵病院の蓮田健院長が語るように、賛否は分かれ、長い間、国内唯一の施設として存在してきました。
リスクの一つとして指摘されているのが「ゆりかご」を目指す母親が、生後まもない赤ちゃんを連れて長い距離を移動することです。

開設から19年で預けられたのは約200人。蓮田院長は、7日、次のように語りました。
「生まれたその日や翌日に、冬の季節に電車に乗ったり道路を歩いたりすることは決して好ましくはない、そこは心配。各都道府県に1カ所ずつ、というのは一つの理想」
国内2例目の“赤ちゃんポスト”

2023年1月、蓮田院長は北海道当別町を訪れました。目的地は、2022年5月に開設された「ベビーボックス」です。玄関を入り、すぐ左手にある扉を開けると、半畳ほどのスペースに、小さな布団と赤ちゃん用のおもちゃが置かれていました。
当時、国内には「ゆりかご」と同じような施設は存在しておらず、北海道の「ベビーボックス」は「国内2例目の赤ちゃんポスト」などと報じられました。
「仮に1人のお子さんが助かることにつながるのであれば、やる意味があるんじゃないかなって」
孤立した妊婦や赤ちゃんの命を救いたいとの思いで、「ベビーボックス」を開設したと語る女性。一方で、北海道は、医療機関と連携しておらず、安全面に問題があるなどとして、運営を控えるよう繰り返し要請していました。
このとき、蓮田健院長は「赤ちゃんの遺棄殺人を防ぐ手立てが広がるかどうか、一種の試金石」と語っていました。
「ベビーボックス」では、4年間で孤立出産のケースを含む15人の乳幼児を預かりました。ただし、北海道によると、この間、母子の生命や健康に甚大な影響を及ぼす危険性があったケースもあったとしています。
こうしたなか「北海道が相談窓口を開設するなど、受け皿が普及してきた」などとして、今年4月末をもって「ベビーボックス」は閉鎖されました。

試金石と例えていた「ベビーボックス」の閉鎖。
慈恵病院の蓮田院長は「赤ちゃんの遺棄・殺人事件が起きると、社会は赤ちゃんに同情して事件を起こしてしまった女性を批判する。その構図は変わらない。だけど、悲しんで憤って、一過性で終わってしまう。それが繰り返されている。じゃあ、これを防止するには、どうしたらいいか、という具体的な動きはなかなか出ない。私は、あの運営者の女性は、北海道民の中で一番赤ちゃんの遺棄や殺人の事件を真剣に考える人だと思っていましたので、その活動が中止になったことは残念」と語りました。
各地で開設の動き

国内では去年3月、東京都墨田区の賛育会病院が「ベビーバスケット」を開設。また、大阪府泉佐野市は、行政が主導する形で「赤ちゃんいのちのバトン」の開設を目指しています。
蓮田院長は、「ゆりかご」開設当初と比べて、取り組みに対する社会の理解が広がった印象があるといいますが―
「全面的に支持してもらえているかというと、必ずしもそうではなくて、各都道府県に1カ所ずつ、慈恵病院のような施設をつくるとなると、多分、いろいろな反対が湧き上がってくるだろうなと。安易な育児放棄や子捨てがまん延するのではないかという不安感・危機感がいまだあると思います」

赤ちゃんが遺棄されたり、殺害されたりする事件はいまだ絶えません。防止のために何が必要なのか、社会全体で考えていく必要があります。













