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2026年4月11日 10:00
熊本地震から10年「庁舎が使えない」市長が語る現場での決断 教訓を次世代へ

 2016年4月に発生した熊本地震では、複数の自治体で庁舎が被災し、業務が一時停止する事態となりました。庁舎内に入ることすらできなくなった自治体もあります。

1回目の地震後に入った庁舎で…

 「前震のときに、もたないと思ったんです。中に入ったときに、ちょうど震度4の地震があって、異様な音がして揺れるんです。もたない、もつはずがない、ということで、庁舎を閉鎖しました」

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 そう語るのは、宇土市の元松茂樹市長。築50年を過ぎた本庁舎は、当時、耐震性の問題から建て替えが検討されていました。まさに、住民アンケートを発送した4月14日の晩に起きたのが、「前震」と呼ばれる地震。宇土市は、震度5強を観測しました。

 「とにかく危ないから職員は入るな、ということで止めていたんです。そしたら、本震といわれる地震が起こって、ぐしゃっと…」

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 前震の後、専門家からは「余震程度では大丈夫」と言われたそうですが、15日に再び震度5強、さらに16日未明には「本震」と呼ばれる地震で、震度6強を観測。本庁舎の4階部分が大きく損壊しました。鉄筋コンクリート造とはいえ、台風でも揺れるほど脆弱な建物でした。

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 幸い、人的被害はなく、災害対策本部を置いていた別館も使用できる状態でしたが、本庁舎が倒壊した場合は、危険が及ぶ可能性があるとして、対策本部をテントに移設しました。

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 ただし、パソコンやファクスは使えない。電話もかろうじて確保した1回線で初期対応を迫られました。公用車の鍵も取り出せないため、職員個人の車で救援物資などを運んだといいます。

 「いま何をやるか、優先順位の高いものから順にやっていく。あとは、全部後回し」

 発災当初は、人手が必要な避難所に各課を割り振ったといいます。

 「BCP(事業継続計画)って、計画は今も立ててますけど、臨機応変にやらないと、無理です。マニュアル通りにやったら絶対回らないです。全庁挙げて、足りないところに人をつぎこむ。柔軟に見直していかないと、マニュアル通りにやったら無理です。できないです」

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 市民体育館に対策本部を移し、5月10日に体育館で市役所の業務を再開。パソコン4台のみでプリンターもなく、卓球台をデスク代わりに、罹災証明の案内などは段ボールにマジックで書いて対応しました。

 「庁舎がなくなる想定があんまりなかった。代替として災害対策本部は耐震の建物に設置するのはあったけど、そこも使えなくなったので、あまり近い場所にあっても役に立たないんだなと」

 庁舎もない、パソコンもない…。非常事態のなかで、気づかされたことがあるといいます。

 「一番の情報は、若い職員、現場に行っている人。そうでないと、切迫感がわからない。現場で何が起きているかということが、一番大事だと思いました」

被災の教訓を生かす

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 宇土市の新庁舎は、地震から7年後の2023年に完成。免震構造の4階建てで、正面玄関の大きなひさしが特徴的です。

 実は、この大ひさしにも、地震での経験が生かされているといいます。

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 「地震のときに、水がバンバン届くんです。何百箱も夜中に何台も来るんです、トラックが。それを運ぶんですが、夜は職員が寝ずにやるんです…。体がもたない」

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 トラックから水などの物資をそのまま横におろせるようにしました。さらに1階の市民交流スペースを物資供給などの拠点として想定しています。

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 ほかにも、中小の河川にライブカメラを整備して市民も確認できるようにしたり、校区単位で地区防災計画の策定を進めています。

 熊本地震から10年となる今年は、市民に防災設備や機能を知ってもらうため、庁舎で市民防災訓練を実施するそうです。

 「自助、共助、公助と近所づきあいの近助。やっぱり、記憶が風化していくんです。10年たったら遠い昔で、うちはないだろうと思われているかもしれないんですけど、忘れないこと。今すぐ地震があってもおかしくないし、いろんな災害が起こりうるので、危機感を持ち続けることが一番重要と思っています」

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 消防庁が2024年4月に実施した調査では、災害時に対策本部を設置する庁舎の耐震化率は市町村で92.0%、代替庁舎を確保している場合を含めると99.9%でした。また、公民館や体育館など含めた公共施設は96.8%と、熊本地震が起きた2016年より5.9ポイント上昇した一方、全国5773棟では耐震性が確認されていませんでした。

 いつ起こるかわからない災害にどう対応するか。ハード面の整備やAIなど最新技術の活用はもちろんですが、最後は人間だと語ります。

 「宇土市でやったようなことが輪島や珠洲でどうかというと、状況が違うので、できない。輪島でやられたことが全国に通用するかというと違うと思います。いろんな事例を勉強しておくのは重要ですが、マニュアルはマニュアル。AIもマニュアルだと思ってもらえれば」

 4月末で勇退する元松市長。この10年で重視したこととは――

 「迷ったらゴー、とずっと言い聞かせていました。やろうかやるまいかと思った時点でやる。どうやってやるかを考える。一歩でも半歩でも前に進む、前方向に進む、斜めでもいいから。立ち止まったら全部そこで影響を受けるので、時間はありません。やるかやらないか、そのためには、現場の空気感も知っておく必要がある。やっぱり大事なのは、現場です」

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