
今年4月で熊本地震から10年を迎えます。土石流に飲み込まれた老舗旅館は、新しく生まれ変わりましたが、葛藤を抱え今を生きています。
「大変な10年、大変じゃなかった年がない10年ですね」

熊本県南阿蘇村で長く湯治場として愛されてきた地獄温泉。創業200年を超える老舗旅館「青風荘.」の河津誠さんは、そう振り返ります。
旅館は2016年4月の地震とその後の大雨で裏手の山が崩れ、土石流に飲み込まれました。

「僕らがつないできたものが、すべて引きちぎられました…」
当時、土砂に覆い尽くされた旅館を前に、肩を落としていた河津さん。希望の光となったのが、土石流にも負けず、生き残っていた源泉です。
「あった!よし!!これを掘り当てれば…。こういう状況で湧いてますので、なんとか取り戻したいと思います」

ここから始まった地獄温泉の復興。ボランティアなど多くの手を借りながら、少しずつ泥をかき出し、人生をともにした建屋を解体、歩みを進めてきました。
全国にもファンが多い名物の泥湯「すずめの湯」が2019年に復活。翌年には宿が一部再開し、2021年には明治中期建設の本館の復旧も成し遂げました。
10年前、土砂に埋もれていた場所には、新たなレストランやフロントなどが並んでいます。すっかり復旧を終えたように見えますが―

「取り戻したのは9室だから、その悔しさはまだ残っていますよ」
さらに、その9室さえも埋まらない状況が続きました。
「震災から4年後にグランドオープン目指して目標達成した。その4月にコロナが来たでしょ。だから、震災から復興する計画は数字としては全部壊れるんです」
復旧にかかった費用は、およそ10億円。うち3億円は、国からの貸与を受けたため、今年から返済が始まりますが、コロナ禍に加え、物価高、直近では中国人観光客の減少などで経営状況は厳しさを増しています。
熊本地震では、南阿蘇村のほかの温泉旅館も被害を受けました。
「5軒あるんですよ、(創業)200年から300年クラスですね。オーナーがそのままで、旅館に戻っているのはうちだけです。非常に厳しい。形の復興から、実際の運営のところで、すごい厳しい状況は、ずっとあります」
災害から10年…復興とは

今年2月、旅館に経営者などを招き、トークイベントを開きました。
「モノができたとか、10年迎えたから復興とは、私にはとても思えなくて…。長年、土地にへばりついて守ってきた方々が、今もう疲弊しまくってます。旅館の店主もそうだし、商店の方もそうだし、床屋さんもいっぱいあったのが、どんどんなくなっているし、いや、それは復興じゃないでしょ」

「もう一度見つめ直す、そういうものが、この10年の節目にとても大切だと思います」
これまでの歩みと、今なお抱える苦しみを包み隠さず話しました。
「忘れ去られないように語り継いでいかないと、次の被災者も同じ苦しみを味わわせることになるので、少しでも軽く済むように。僕らの経験が生きればと、それが一番いいなと思いますね」
地獄温泉では、河津さんの息子2人が旅館で働くことを決めてくれました。
温泉を守る職人「湯守」は、長男の健太さん。
「ほっとけないっていうか、あんなことがあって、別のとこに行けないっていう。地獄だから引き寄せられるんじゃないかって」
次男の拓さんは、有名珈琲店で積んだ修業の成果を発揮してくれています。
「みなさんがボランティアで手伝ってくれているのを見て、盛り上げていきたいなっていう気持ちは強かったです」
災害から10年。息苦しさを覚え、疲れた心を癒やす湯治場として、これからも踏ん張っていく覚悟です。













